(「宮ノ杜、お前、校庭で何をしていた?」「でーへーへー!」)12月24日。 今日は、終業式。そして、クリスマスイブだ。 教室内は、明日から始まる冬休みとクリスマス前日のためか、なんだか浮足立っているみたい。 かく言う俺も、妙にそわそわして、数式なんか全く頭に入ってこない。 先生が黒板に書く文字が、呪文のように見える。 窓の外に目をやれば、どんよりと灰色の雲。 もしかしたら、雪が降るのかもしれない。 頬杖を突いて、窓の外をぼんやりと眺めていると、見覚えるある姿を見つける。 何かの見間違えじゃないのか。もう一度、よく目を凝らして見る。 だだっぴろい校庭を越えて、柵の付いた門の前に一人の女の子。 「……はるだ。」 驚きのあまり、ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がってしまった。 教室中の視線が、一気に集まる。 「何事だ、宮ノ杜。」 教科書を片手に、驚いた顔で先生が板書の手を止める。 真黒の制服を着た生徒達が、俺の顔を見上げている。 とっさの出来ごとで、頭が回らず、思わず口をついて出た言葉は「お腹が痛いです。」の一言。 「宮ノ杜はいつも食い意地張っているからな、何かに当たったんじゃないのか?」 ドッと湧きあがる笑い。 俺も笑って、頭に手を当ておどける。 「席を外してもいいぞ、便所に行って来い。」 先生が、便所へ促してくれたので、俺は急いで教室を後にした。 向かう先は、一つしかない。 靴を履き替えて、一目散に校門へと走った。 誰も居ない校庭を駆け抜けるのは、爽快だ。 白い息が、目の前を通り過ぎていく。 「はるっ!!」 大きな声で、はるを呼ぶ。 振り返るおさげの女の子。 驚いた顔が可愛くて、心の中でニンマリとする。 「ひっ、博っ!ど、どうしたの!?」 まっ白い息を吐きながら、柵越しのはるが目をまん丸くしている。 「でへーへー!驚いたでしょ?」 「驚いたも、なにも、何でここに……!?」 「何でって、そりゃここ、俺の学校だもん!」 「そ、それは知っているけど……でも、まだ博、学校が終わるには早いじゃない!」 「でへへっ、はるを見つけて抜け出して来ちゃった!はるこそ、どうしてここにいるのさ?」 「そ、それは……」 「もしかして、俺を待ってた、とか?」 どうやら、図星だったよう。 はるが顔を背けて、小さく頷く。 そんな様子が可愛くて、またもやニンマリ。 今度は、顔に出てしまう。 「明日クリスマスでしょ……。買い出しを頼まれたの。そしたら、丁度、博の学校が終わる時間が近いものだから、一緒に帰れないかと思ったの。」 小さくポツリと呟く、はる。 嬉しくて、涙が出そう。 「……はるの顔真っ赤だー!」 「ち、違うの!これは寒いからっ!」 そう言って茶化すと、はるの顔がリンゴのようにますます真っ赤になっていく。 鼻先まで、真っ赤かだ。 「もうっ!博のばかっ!茶化さないでよっ!」 恥ずかしがる、はる。 俺は、今、目の前に立つ女の子が恋しくて恋しくてたまらない。 「ねえ、はるちょっと顔貸してよ」 「へ?何?」 「いーから!早く早く!」 柵越しに顔を近づける、はる。 真っ赤な鼻。白い息。不思議そうな顔。 俺は、柵の間から小さくキスをした。 ちゅ、と音を立て真っ赤な可愛い鼻に。 「……ひ、博っ!!」 「ちょっと待ってて、今、鞄取ってくるから!」 そう言い残して、走り去る校庭。 恥ずかしくて、顔が熱い。 校門の柵が開くまで、あと20分。 きっと俺は待てないから、もう一度、柵越しにキスをしよう。 今度はきっと、唇に。
赤い鼻先へやさしいキスを
(title by love is a moment)
<10.12.22>