情事の後、二人で横になるのが好きだ。 身体は少しだるいけど、そのけだるささえ心地いい。 「その……、大丈夫か?」 「何がですか?」 「……身体が、ということだ。」 情事のあとの正さんは、優しい。 いつも優しいけど、いつもよりもっと優しい。 そんな正さんを見るのが、私はとても好きだ。 「女の方がこうゆう時、負担が大きいと聞くからな」 少しだけ照れながら話す正さんが、可愛くて仕方がない。 自分よりも何歳も年上なのに、可愛いなどと思うことはいけない事だろうか。 胸の奥がくすぐられるような、そんな感覚。 「ありがとうございます、正さん。でも、大丈夫です。」 にやける顔を隠すために、布団に少し潜り込む。 正さんは、私の頭を大きな手で撫でる。優しく、優しく。 そうして、自分の胸元へと引き寄せた。正さんの体温が、頬に触れる。 いつもはスーツを身にまとっているから、分からないけれど、正さんはとてもいい身体をしている。 厚い胸板に、安心を覚える。 「つかぬことを、聞くが……お前は、俺といて楽しいか?」 「……急にどうしたんですか?」 「急にではない。前から気になっていたのだ。」 顔を上げ正さんの表情を見る。 メガネもなく、髪もあげていない。服も着ていない。 何も武装していない、何にも守られていない、ありのままの正さんがそこにはいた。 「昔な、紀夫に言われたんだ。お前は、宮ノ杜も澄田もなければつまらぬ男だ、と。」 「それは…紀夫さんも――」 「わかっている。紀夫は長年の友人だ。友人としての心ある忠告であることぐらい、私にも分かる。けどな、お前といるといつも感じるのだ。私は本当につまらぬ男だと。」 遠く、天井を眺めていた正さんの目が、急に私を捉えた。 「はる、私といて楽しいか?」 正さんの瞳が揺れる。 こんなに、力ない表情を見たのは久しぶりだった。 今の正さんは、何にも守られていない。何も身につけていない。 メガネも服も宮ノ杜も澄田もなにもない。ありのままの、裸のままの正さんがいる。 「……正さんは、馬鹿です。」 「なっ!今なんと言った!?」 「大馬鹿者と言ったんです!」 がばり、と驚き起き上った正さんにつられて、私も起き上った。 ベッドに二人で座り込み、そして裸のままで、見つめ合う。 さぞ、奇妙な光景だろう。 「私は一緒にいて楽しくない男の人と、これから結婚しようだなんて思いません。」 先日貰った婚約指輪を、私は誇らしげに正さんに見せびらかす。 蝋燭の炎に照らされ、指輪がキラリと光った。 「正さんは、澄田も宮ノ杜もなくったって十分面白いです!」 「……。」 「いつもは素直じゃないのにたまにすごく私甘やかすところも面白いし、酔うと勇様と共に全裸になってしまうところも面白いし、30超えてるのにちゃんとイチゴの手袋して下さるところも……――」 「もうよい!お前に聞いた私が大馬鹿者だった!」 大きな身体が一瞬で私を包み込んだ。 そして、そのままベッドに倒れこむ。 「正さん、重いです……」 「……私を馬鹿だと言った罰だ」 正さんの髪の毛が、さらさらと首筋に当たってくすぐったい。 けれど、心地よかった。 こんなに素敵な人とこれからも一緒に生きていくのだ。 面白くない訳がないだろう。

のままで

<10.09.20>