「茂さん、」 茂さんが好きで、たまらなく好きでどうしようもなくなる。 愛おしくて愛おしくて、どうしようもなくて、胸の奥が締め付けられる瞬間。 私は、小さく切羽詰まった声で、思わず茂さんの名前を呼んでしまう。 そういう時は決まって、茂さんが少し驚いた顔をして、そして、ゆっくりと微笑む。 形の良い唇が、きゅっと上に持ちあがる。西洋の彫刻のような顔が、優しく形を変える。 茂さんは、どうしたの、といつもの調子で応えた後、私の頭を撫でる。 私はそれがとっても大好きで、居心地良くて、いつも甘えてしまう。 「茂さん、今日は寒いですね」 「うん」 「外に出ると、息がまっ白ですね」 「うん」 茂さんの顔を見据え、黙りこくっていると、彼はしっかりと私の想いを見透かしてくれる。 「抱きしめて欲しいの?」 恥ずかしくて言えない言葉も、彼はしっかり心で受け止めてくれる。 私は小さくコクリと頷いた。 「甘えん坊さんだねえ」 茂さんはそう言って微笑むと、華奢な腕でふわりと私の体を包み込む。 程良く筋肉のついた胸板が、固い。 ちょっとだけ、不思議。 この人は、女の人みたいな綺麗な顔をしてるのに、体は意外にもすごく男の人なのだ。 「ふふふ」 私は、茂さんの腕の中にすっぽりと収まる瞬間が好きだ。 だって、全身で茂さんを感じれるから。 茂さんの体から、いい香りがする。 男らしい香り、でも、どことなく甘い香り。 「茂さんの香りって良い匂い。ものすごく落ち着く。」 「本当に?」 私が小さく呟くと、息がくすぐったかったのか、くすくすと笑う茂さんの体が揺れる。 「うん、どことなく甘い匂いもします。」 「うーん、お香の香りかな?」 「お香?」 「うん。お店で女装するでしょ?だからかな。」 あぁ、そういえば。茂さんの部屋の匂いって、茂さんの匂いかも。 だから、茂さんの部屋にいると、茂さんがいなくったって落ち着くのかもしれない。 「……ねえ、茂さん。茂さんは、女に産まれたいって思った事ありますか?」 特に意味がある訳ではない。でも、ふと思いついたこと。 だって、こんなに綺麗なのだから、この人はきっと女に産まれたって良かったはずだ。 私のくだらない質問に、茂さんは、少し笑って、その後真剣に 「女に産まれたいと思った事はないよ。」 と言った。 何故?と、もう一度問えば、 「だって、女に産まれていたらこうして、はるを抱きしめれないでしょ。」 と真面目な顔をしていうから私は嬉しくなって、茂さんの背中に回す手に力を込めた。 暖かい体温に身をゆだねれば、好きすぎてどうしようもないという気持ちが溢れて止まらなくなって、ちょっとだけ泣きそうになって、でも茂さんの香りで落ち着いて。 一瞬一瞬がその繰り返しで、とりあえず、私は茂さんが好きすぎてどうしようもないという事だけは確かなんだなと、彼の腕の中でひっそりと思った。

私という人間 (私の頭の中はいつもそんな事ばかり)

<10.11.25>