あまーいあまーいチョコレートに、サクッと香ばしいビスケット。 ふわふわなまっ白いマシュマロ、そして、クリイムが溢れだすシュウクリイム! 全ての女の子の幸せが、一つの箱に詰め込まれて我が家にやってきた。 自然と顔が綻んでしまう。 女の子はみんな、あまーいあまいお菓子が好きだ。 甘い物は、悪い誘惑。 都合のいい事に、今は父さん母さん、たえ、ふみ、そして、茂さんも不在である。 私は、こっそり箱の中で誰かの迎えを待っているであろうシュウクリイムを一つ手に取った。 先に、少しぐらい、味見したって罪はない筈……! 「それ……どうしたの?」 一口だけ、とシュウクリイムを頬張った瞬間に茂さんが部屋に入ってきた。 固まる私。そして、無言でこちらへ歩みを進める茂さん。 私が慌てて、齧ったシュウクリイムを箱に戻そうとすると、その腕をとられてしまった。 茂さんは私の腕を引き寄せると、そのシュウクリイムを口へ近づけた。 パクリと齧られたシュウクリイム。 茂さんの薄いやわらかな唇の中に、甘いクリイムが消えてしまった。 「独り占めする気だったでしょ?」 茂さんの姿に見とれていると、バチリと目が合った。 ドキリと、心臓が跳ね上がる。 「その、味見がてらと思い……。」 「一口食べちゃったの?」 「はい……。」 「いや、別にそれはいいんだけどね。一体、これどうしたの?」 茂さんは、怪訝そうな顔で横に置かれた箱を覗いた。 「頂き物なんです……。今さっき届いた所ですよ。」 「今さっき?誰から?」 茂さんは眉をひそめて、箱の送り主の正体を知りたがった。 一瞬言うのをためらったが、きっと茂さんも大体の見当はついているのだろう。 私は、小声でその質問に答えた。 「その、あの、弦一郎様からです……。」 「あー……やっぱねえ。大体の見当はついていたけど。あの人は何がしたいんだか!」 茂さんは、大きくため息をつくと、ベッドに倒れ込んだ。 「すみません、勝手に受け取ってしまって……。」 「なーに謝ってるの?別に、気にしてないよ。」 前も似たような事あったしねえ、と茂さんが笑った。 私が罰の悪い顔をしていると、茂さんに名前を呼ばれた。 「はる。こっちへ来て。」 私は、小さく頷き茂さんに近づく。 茂さんは、体を上げ、ベッドの端へ座った。 そして、私の手首を握る。 「なんでそんなに暗いかおしてるの?俺、本当に気にしてないから。」 「ほんとのほんとですか?」 「ほんとのほんとだってば。」 「ほんとのほんとの本当ですか?」 「ほんとのほんとの本当!だから、安心して。ねっ?」 茂さんが、私の手首を優しく撫でる。 私は、コクリと頷き、小さな声でごめんなさいと謝った。 茂さんも、コクリと頷いた。 「ところで」 「はい」 「さっきから気になってたんだけどさあ……」 「はい」 「お嬢さん……」 「はい」 「……――クリイムついてますよ??」 「……え?」 そう言ったあと茂さんは、一気に噴き出して大笑いした。 私は、慌てて口元を確認しようとしたが、茂さんに両手を取られて動けなかった。 「ほっ、本当ですか!?ずっと付いていたのですか!?」 「本当だよ!クリイム付けながら、落ち込んでるんだもん!ひー面白いっ!」 「なんで教えてくれなかったのですか?」 「だって、面白いんだもん!」 茂さんは、笑っている癖に、じたばたする私を決して離さなかった。 一通り笑い終わるのを待ってみたが、一向に離してくれる気配がない。 「もう、茂さんっ!笑いすぎですって!クリイムを取りたいので離して下さい!」 「あははははは!あー面白いっ!」 「お願いです!離して下さいっ!取りたいんですっ!」 「分かった!分かったよ!離すよ!」 茂さんは、ようやく笑うのをやめた。 私は、ほっと安心して力を抜いた。 その瞬間、ペロリと口元に何かが宛がわれた。 離れていく茂さんの顔。 「しっ、しっ、茂さんっ……!?」 「やっぱり、あまーいよね。クリイムは。」 「今っ……!!な、な、何を!?」 突然の出来事に、思考が働かない。 何が起こったかなんて、把握出来なかった。 「舐めたんだよ。」 にやりと笑う、茂さん。 「なっ、なっ、なっ!!!舐めた!???」 「なんなら、本当に舐めたか、確かめてみる?」 挑戦的な顔に、少し戸惑うと、ぐいっと、手をひかれた。 茂さんとバチリと目が合い、そして、唇が触れあった。 口内に侵入する、暖かなもの。 そこで私は、現状を把握する。 「ね?」 茂さんの唇は、確かに、甘かった。

甘い贅沢

<10.10.26>